ご挨拶
このたび、第26回日本認知療法・認知行動療法学会を、2026年9月11日(金)から13日(日)にかけて、東北学院大学五橋キャンパス(仙台市)を会場として開催いたします。大会テーマは「人生の物語を育むCBT:早期介入とリカバリー志向の社会実装へ」といたしました。
現代社会において、精神疾患を抱える人々の数は、子どもから高齢者まであらゆる世代で増加を続けています。人生の軌跡のなかで多様な要因が複雑に絡み合ってしまい、症状や問題が慢性化・重症化することも珍しくはありません。本大会では、一人ひとりの人生の意味や価値に寄り添った支援の実践に向けて、「早期介入」と「リカバリー志向」の視点をテーマとして取り上げました。
早期介入とは、問題が深刻化する前の段階で適切な支援を提供し、長期的な予後の改善を目指すアプローチです。CBTでは「現在」に焦点を当てることが基本ですが、現在の問題を過去や未来の文脈の中に位置づけることも重要です。この視点は、精神疾患の前段階にある保健・教育・産業領域での活用が期待されるとともに、発症後早期からCBTを適切に標準医療に組み込む体制整備の必要性も示しています。さらに、すでに慢性化・重症化した事例に対してもCBTの有効性は多くの研究で実証されており、より早期からの適用による効果が期待されます。また、早期介入の視点から福祉や司法領域などとの連携を深めることも重要な課題です。
リカバリーの視点は、A.T.ベックらによる「リカバリーを目指す認知療法」の登場以降、従来のCBTへの応用が注目されています。これは単に症状の軽減にとどまらず、当事者が自らの人生の価値や意味を見出し、「自分らしい生き方」を再構築していくプロセスに重きを置きます。こうしたリカバリー志向のアプローチは、幅広い精神疾患への適用が期待され、多くのCBT実践に導入されつつあります。その人の人生に寄り添いながら、その人の物語を共に育むための支援の方法論を確かなものにしていくことが必要です。
また、社会実装の観点からは、多職種が連携し、「必要な人に、必要なタイミングで、適切な支援を届ける」体制づくりが不可欠です。2025年に創設された学会認定医制度は、科学的根拠に基づく実践を支える仕組みとして、質の高いCBTの普及に寄与するものです。さらに、AIをはじめとするデジタルデバイスを活用した新たな手法は、今後のCBTの発展に欠かせない要素となるでしょう。制度、技術、地域との連携を含めた包括的な議論を深める場として、本大会がその一翼を担うことを願っております。
なお、本大会は、東日本大震災から15年の節目にあたる仙台市での開催となります。復興の進んだ街並みの陰で、今なお震災による深いトラウマとともに日常を送る方々も多くいらっしゃいます。この機会に、トラウマに対するCBTの普及と、長期的な心理的影響への支援の在り方についても、皆さまとともに考えを深めてまいりたいと考えております。
多様な人生の軌跡に寄り添い、一人ひとりの物語を大切にする認知行動療法の実践と展望をともに深める場として、多くの皆さまのご参加を心よりお待ち申し上げます。
大会長:松本和紀(こころのクリニックOASIS)